Natalia「Por do sol」

1pt   2017-10-12 10:05
プロデューサーさんっ!SSですよ、SS!-アイマスSSまとめ


1: ◆77.oQo7m9oqt 2017/10/12(木)00:52:10 ID:sHC
強い独自設定あり。
この作品はフィクションです。実在する地名、行事等々と作中のものには一切の関係がございません。
よろしくお願いします。


2: ◆77.oQo7m9oqt 2017/10/12(木)00:52:50 ID:sHC



 おひさまみたいに笑う子だった。幼い心にそう思ったのが、少年の異国における最初の記憶だ。

 人通りの多い市民公園の中、レッドシダー製の茶褐色のベンチに腰掛けて少年は所在なく地面を見つめていた。視界にふとサンダル越しの褐色の肌が見えて顔を上げると、日光を跳ね返しそうなほどに白いワンピースが目に眩しかった。

「Vamos brincar!」

 不思議な呪文のように響く少女の言葉を少年が理解することは叶わない。まだ齢七つの少年にとっては日本語だけが言語だった。

 反応を返さない少年に、少女は笑顔のままこてんと頭を傾けた。

「Hay que jugar?」

 わからなくて、少年はかぶりを振った。

 少女の言葉は、どちらも『遊ぼう』という意味だった。ぼんやり俯いている少年が気になって仕方がなかったのである。歯を見せて笑う少女にとっては、少年の顔はとても退屈そうに映った。

「……なに言ってるのか、わかんないよ」

 一方の少女も日本語はわからない。呟くように言うと、少女は今度は逆側に首を傾げてしばらく、それから自身の胸に手を当てた。

「Natalia! …………ナターリア!」

 少女────ナターリアは、名乗るなり少年の手を取って駆け出した。

「えっ、ちょ、ちょっと……なになに!?」

 びっくりするヒマもなく無理やり立たされ、転ぶのは頼りない足でなんとかこらえた。

「どこ行くの!?」

 日本語の問いには答えず応えられず、ナターリアは声を上げて笑って、楽しそうにずんずんと走って行く。つないだ手はそのままに少年は引っ張られるのに任せて足を動かした。

 見える横顔は、やっぱりおひさまみたいだった。

3: ◆77.oQo7m9oqt 2017/10/12(木)00:54:27 ID:sHC

 公園、と言っても少年たちが出会った場所には砂場やすべり台はない。

 日本の公園とは規模が違う芝生が一面に広がり、その中をレンガ道がうねうねと走る。道沿いに設けられるベンチに規則性はない。

 粗めの手入れがされた芝の上にはパウダルコの木があちらこちらにつっ立っていた。ブラジルの国花でありカナリア色の花を咲かせるそれは、今は緑の葉を茂らせている。

 舗装されている道には目もくれず、ナターリアは少年の手をしっかと握ったまま芝生の上を踏みしめた。子供の足で五分ほど。

 小さな噴水広場のそばを駆け抜け、精霊を模した奇妙な形の白色のモニュメントの横を通り過ぎて、木々の合間を抜けていく。

 なすがままに任せて辿り着いたのは、三十メートル四方ほどの小さな空間だった。

 まわりには風景を隔絶するように背の高いパウダルコが林立し、足元はゆえあって他の場所よりも芝が丁寧に刈られている。ナターリアが手を離した。

「ここ……なに?」

 自由になった手を膝につき、息の切れ間に少年は呟く。振り返ってナターリアはニコッと笑った。

「Vamos brincar!」

 だからわかんないってば。

 くちびるを尖らせる少年を尻目に、ナターリアはキョロキョロと辺りを見渡した。何かを見つけてさらに顔が明るくなる。その方向へまた走り出した彼女を反射的に追いかけようとして、

「ねえちょっと────うわっ!?」

4: ◆77.oQo7m9oqt 2017/10/12(木)00:54:49 ID:sHC

 飛んできた何かに大げさにのけぞった。────サッカーボール? てんてんと跳ねて少年の足元で止まる。白と黒のコントラストが土に汚れて褪せているが、それは確かに古式ゆかしいサッカーボールだった。

 一緒に遊ぼう? とナターリアはまた言った。相変わらず言葉は少年にはちんぷんかんぷんだったけれど、状況のおかげで今度ばかりはその意図も通じる。

 いいのかな。

 笑顔でぶんぶん手を振るナターリアに向かって、少年はおそるおそる右足でボールをキックした。

 転がって返ってきたボールをサンダルの裏で止めて、ナターリアは心から嬉しそうに、咲くような笑顔を満面に浮かべた。

「Nice pass!」

 つられたように少年も笑って、面映ゆくなって頬をかいた。

 ナターリアが蹴って返ってきたボールを拙い足取りで止め、少年も「ナイスパス」と照れながら言った。

転載元:Natalia「Por do sol」
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